遺産の分割/遺言内容と異なる遺産分割協議
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説例
A・B・Cの共同相続人がある場合に「甲土地をA・Bに各1/2の持分で相続させる」旨の遺言があったが、A・B間で「A持分1/3、B持分2/3とする」旨の遺産分割協議が成立したとして、当該遺言書および遺産分割協議書を提供して、ただちA持分1/3、B持分2/3とする相続登記の申請の可否について検討します。
設例の検討
相続させる遺言に関する最高裁判所判例平成3年4月19日にしたがえば、本件遺言により被相続人死亡のときにただちに甲土地についてAおよびBの持分各1/2とする権利移転の物件的効力を生じ、遺産分割の対象とはなりません。
したがって、改めて甲土地につき遺産分割を行う余地はなく、いったん遺言にしたがった相続登記を経由しなければなりません。
よって、当該遺言書およびAB間の遺産分割協議書を提供して、ただちにA持分1/3、B持分2/3とする相続登記の申請をすることはできません。
そのうえで当該遺産分割協議は、通常の共有者間における共有持分の一部の譲渡(登記原因は「売買」、「贈与」、「交換」など)あるいは共有物分割の合意が成立したものと解することができますので、その場合にはBを登記権利者、Aを登記義務者とする共同申請により、A持分の一部移転の登記をすることになります。
相続人に対する特定遺贈等の場合
相続人に対する特定遺贈や、特定財産承継遺言があった場合にも、相続人全員の同意があれば遺言と異なる内容の協議分割も許されると解されていますが、その理由づけについては次の2つに大別されます。
第一説は、特定遺贈または特定財産承継遺言により相続開始時に特定の財産を取得した相続人がその余の遺産の分割協議に際し、取得した財産を共同相続人間で贈与ないし交換するものは可能であるとするものです。
東京地方裁判所判例平成13年6月28日は、相続人らが相続させる遺言と異なる内容の遺産分割協議を行い、その協議にもとづいて相続登記を行ったところ、遺言執行者が相続人らに対し当該登記は無効であるとして、真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記を求めた事案につき、次のように述べました。
本件遺産分割協議は、その余の遺産についての遺産分割協議とともに本件遺言による当該相続人の取得分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当です。
この場合には、当該相続人への相続による所有権の移転の登記をしたのち、他の相続人らへの持分移転登記をすべきであるが、本件相続登記は現在の実態的管理関係と合致している以上、その抹消等を求める法律上の利益を欠くとして、請求を棄却しました。
設例の場合、この考え方によれば当該遺言にしたがい、A・Bの持分を1/2とする相続登記をしたうえで、A持分につき、Bへの持分一部移転の登記(登記原因は「贈与」「売買」など)とするのが相当であるということになります。
第二説は、特定遺贈または特定財産承継遺言による利益の全部または一部を放棄してこれを遺産に復帰させることにより相続人間で遺産分割協議を行うことができるとするものです。
特定遺贈にかかる事案で、特定財産の遺贈を受けた相続人が、遺言の内容を知りながら他の共同相続人との間において、これと異なる遺産分割をした場合には、遺贈の全部または一部を放棄したと認められるとした判例があります(東京地方裁判所判例平成6年11月10日)。
定期預金債権を含む特定遺贈があった場合において、当該定期預金を除いて共同相続人間の協議による遺産分割協議がされた事案につき、他の遺贈財産については当該協議の成立時までに遺贈の放棄があったものと認めて、その有効性を肯定したものがあります(最高裁判所判例平成12年9月7日)。
特定遺贈の放棄については明文の規定がありますので(民法986条)、第二説のように考えることができます。
- 民法第986条
- 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
- 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
しかし、特定財産承継遺言による当該特定遺産の承継のみの放棄(遺言)による利益の放棄の許否については、特段の規定はありません。
平成30年改正に至る過程においては、遺言による配偶者居住権の取得が遺贈に限られ、特定財産承継遺言によることはできないとされたことからもわかるように、特定財産承継遺言による遺言の利益のみの放棄は消極に解されています。
仮に、これを積極に解した場合、設問の甲土地は遺産に復帰しますので、その帰属は相続人全員(A・Bのほか、Cをも含む)の協議によることになります。
またその理由づけはともかく、遺言の内容と異なる遺産分割が許容されるのは相続人全員の合意が前提となります。



