遺産の分割/遺産分割協議の無効・取消し・解除
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遺産分割協議の無効または取消し
共同相続人の一部を除外してされた遺産分割協議は、無効とされるほか、遺産分割の協議後に一部の者の無資格が判明した場合には、原則として無資格者に分割された部分のみを無効として再分割すれば足ります。
無資格者がいなければ、分割の結果が大きく異なっていたであろう特別の事情があるときに、全部無効として再分割をすべきであると解されています。
遺産分割の協議は、共同相続人全員の合意にもとづくものですから、民法総則に規定する法律行為および意思表示の無効または取消しの事由(意思無能力、制限行為能力、公序良俗違反、錯誤、詐欺・強迫など)にあたる場合には、それぞれの規定にしたがって効力が否定されます。
遺産分割の協議または調停の無効確認の訴えは、固有必要的共同訴訟であると解されています。
平成29年改正前の民法95条に規定する意思表示の錯誤に関する裁判例として、次のようなものがあります。
- 相手方の虚偽説明により預金額について誤信し、遺産の範囲について重大な錯誤があったとしたものがあります(広島高等裁判所松江支部決定平成2年9月25日)。
- ほかの共同相続人の不正確な説明のために動機の錯誤に陥り、遺産分割に応じたが、その錯誤がなければ遺産分割協議に応じなかったとして無効としたものがあります(東京地方裁判所判例平成11年1月22日)。
- 遺言の存在を知らずに遺産分割協議をした事案につき、遺言の存在を知っていたら特段の事情がない限り遺産分割の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高く、要素の錯誤により無効である可能性があるとして、原審に差し戻したものがあります(最高裁判所判例平成5年12月16日)。
他方、4. 遺産分割協議の際に、他の相続人の生活を保証する旨を約して全財産を取得した者が、これを怠ったとしても要素の錯誤には当たらないとしたものがあります(神戸家庭裁判所審判平成4年9月10日)。
遺産分割協議の解除
法定解除の可否
共同相続人間の遺産分割協議が成立したにもかかわらず、相続人の一人が、他の共同相続人が当該協議で負担した債務、たとえば代償分割により特定の相続人に負担させられた代償金支払債務を履行しない場合には、債務不履行を理由に履行の強制または損害賠償の請求をすることができますが、これに加えて遺産分割協議そのものを法定解除することができるでしょうか。
この点につき、判例は、遺産分割協議において、長男が他の相続人より多い遺産の分割を受けたが、それには母の扶養をするなどの負担がついていたのに、扶養義務を尽くさなかったとして、他の相続人が遺産分割協議を解除し、長男が取得した不動産について更正登記手続きを求めた事案について、次のように述べています。
遺産分割は、その性質上協議の成立とともに終了し、その後は当該債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務の関係が残るだけであります。
そのように解しなければ、遡及効を有する遺産分割について再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることなどを理由に、他の相続人は、当該遺産分割協議を法定解除することはできないとしています(最高裁判所判例平成元年2月9日)。
合意解除の可否
共同相続人の全員が、すでに成立した遺産分割協議の全部または一部を合意により解除(合意解除)したうえ、改めて遺産分割の協議をすることは、当然には妨げられないとしています(最高裁判所判例平成2年9月27日)。
登記実例も遺産分割協議にもとづく相続登記がされている不動産について、当該遺産分割協議を合意解除し、新たな遺産分割協議が成立した場合には、当該相続登記を錯誤により抹消したうえで、新たな遺産分割協議書を提供して相続登記の申請ができるとしています。
なお、遺産分割の審判および調停については、合意解除は認められません。登記先例は審判で遺産分割による各自の相続財産が決められたのち、相続人全員の合意で審判と異なった分割の協議が調っても、その協議は審判により一旦確定した権利の移転または共有物分割としての効力があるに過ぎないとしています。
また、登記実例として、甲地および乙地を共同相続人A・Bの共有とする遺産分割の調停調書、およびA・Bが作成した甲地をA、乙地をB所有とする遺産分割協議書を添付して甲地の相続人をA、乙地の相続人をBとする相続登記の申請は、できないとしたものがあります。



