遺産の分割/分割前の預貯金払戻し
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預貯金の一部払戻し
最高裁判所平成28年12月29日大法廷決定は、預貯金が現金に近く、遺産分割における調整に資することなどの預貯金一般の性格を踏まえ、各種預貯金債権の内容および性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当であるとしました。
この大法廷決定後においては、共同相続された預貯金債権は、遺産分割が成立するまでのあいだ相続人全員が共同して行使しなければ払戻しが認められないことになりました。
そのため、相続債務の弁済や当面の生活費の必要などを考慮して平成30年改正後の民法909条の2は、遺産分割前における預貯金債権の行使として、各共同相続人は原則として遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとの相続開始時の債権額の3分の1に当該相続人の法定相続分を乗じた額については単独で払戻しができるものとしており、払戻しを受けた預貯金は、当該相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます。
上限額算定の基礎となる預貯金額は相続開始時の額であり、その後預貯金額が変動しても上限額は変動しません。
- 民法909条の2
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
金融機関の対応
同一の金融機関に複数の口座がある場合において、払戻しを受けられるのは金融機関ごとに法務省令で定める額を限度とするとされ、その額は150万円と定められています。
上限額150万円の範囲内で、どの口座からいくら払戻しを求めるかについては、請求者の判断によります。つまり、定期預金のみから150万円、あるいは普通預金50万円プラス定期預金100万円などです。
しかし、個々の預貯金ごとの制限がありますので(普通預金100万円、定期預金200万円が限度)、普通預金のみから150万円の払戻しを受けることはできません。
払戻し請求の回数については、特段の制限はなく(上限額に達するまで可能)、また払戻しを受けた金額の使途も問われません。
払戻し請求にあたっての必要書類については特に規定されていませんが、次のようなものが必要と解されます。
- 預貯金名義人である被相続人の死亡の事実
- 相続人の範囲
- 払戻しを求める者の法定相続分がわかる資料
具体的には、戸籍・除籍全部事項証明書(戸籍・除籍謄本)などの戸籍関係書類一式、または法定相続情報一覧図の写しなどの提示を要すると考えられます。
共同相続人の一人が、預貯金の一部払戻しを受けた場合には、当該共同相続人が遺産の一部分割により取得したものとみなされます。
その場合、遺産分割は、特別受益の持戻し計算をしたのちの各共同相続人の具体的相続分に応じて分割されるため、共同相続人の一人が払戻しを受けた預貯金の額がその者の具体的相続分を超過する場合には、当該相続人はのちの遺産分割において超過部分を清算すべき義務を負い(代償金の支払い)、これにより相続人間の公平が確保されることになります。
民法909条の2は、遺産分割の対象となる「遺産に属する預貯金債権」を対象としており、特定の預貯金債権が遺贈や特定財産承継遺言の対象となった場合には、当該預貯金債権は相続開始と同時に受遺者・受益相続人に帰属し、遺産分割の対象となる遺産から外れることになりますから、受遺者や受益相続人は全額の払戻しを受けることができます。
もっとも、金融機関としては、所定の債務者対抗要件が具備されるまでは、当該預貯金債権が遺産に属することを前提として処理すれば足り、その後に債務者対抗要件が具備されたとしても、すでにされた民法909条の2による払戻しが無効になることはないと解されています。



