相続放棄概説
「春日部・越谷相続おまかせ相談室」による、相続・遺言・相続放棄の法文を解説しております。難しい言葉を使わず、どなたでもわかりやすいように解説しておりますので、ぜひご覧ください。
本ページは、相続放棄の解説です。相続放棄についてお困りの際は、無料相談も承っておりますのでお問い合わせください。
相続放棄とは
相続の放棄とは、相続人を債務の相続から解放する制度です。相続開始によって、一応自己のために生じている相続の効力を全面的に拒否する相続人の一方的意思表示(相手方のない単独行為)です。
遺言で、相続の放棄をすることを禁止することはできません。また、相続人間で、相続開始前に、相続人中のある者が相続の放棄をすることを定めたとしても、民法には、被相続人の生前における相続の放棄の規定がないので、その効力は生じません。
なお、相続の放棄にあっては、相続の一部放棄という概念はなく、相続の効力を全面的に拒否する点で、相続の限定承認とは異なります。
相続の放棄について、次のような判例があります。
- 相続の放棄は債務のみが相続の対象である場合でも、これをすることができます。
- 相続の放棄は、相続の放棄をすることによって、相続債権者に損害を加える結果となり、また放棄者がそれを目的とし、もしくは認識してなされたとしても、民法が相続放棄の自由を認めている以上、無効と解すべきではありません。
- 相続放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきでないと解されるので、民法第424条の詐害行為取消権行使の対象とはなりません。
相続放棄の方式
相続の放棄ができる期間
相続の放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知ったときから、3ヶ月以内(熟慮機関内)にしなければなりません。この期間は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができます。
家庭裁判所に対する申述
相続の放棄の申述の受理は、家事事件手続法についての審判事件です。相続の放棄をしようとする者は、前記の熟慮期間内に相続の放棄をする旨を相続を開始した地(被相続人の住所)の家庭裁判所に申述書を提出しなければなりません。家庭裁判所は、申述が適式であり、申述人の真意に基づくものであることを確認して受理します。
相続人が未成年の場合は、その法定代理人(親権者または未成年後見人)が本人に代わって相続の放棄をすることになります。
相続放棄申述受理証明書
相続の放棄の申述受理の審判がなされたときは、裁判所書記官によって、当事者および利害関係参加人に対して通知がされます。相続の放棄の申述受理の審判は、申述書にその旨を記載されることとされ、別途審判書が作成されるものではありません。相続の放棄の申述受理の審判の効力は、申述書に受理の審判をした旨を記載したときに、その効力を生じます。
相続放棄をする場合において、相続の放棄をした者がいるときは、裁判所書記官に家事審判事件に関する事項の証明書の交付を申請し、この交付を受けた証明書(相続放棄申述受理証明書)を、相続登記の申請情報と合わせて提供することになります。
相続放棄申述受理通知書
相続の放棄をした者がいる場合には、相続を放棄原因とする所有権移転登記の申請情報と合わせて登記原因証明情報の一部として、相続放棄申述受理証明書を提供することを要し、相続放棄申述受理通知書は登記原因証明情報の一部とすることはできないとする見解があります。
しかしながら、この見解に対しては反対説があります。登記原因証明情報の一部として相続放棄申述受理通知書を提供した場合であっても、「申請通りの権利変動が生じているか否か、登記官をして形式的に確認させ、あるいは申請情報の記載の誤りを審査し、不実ないし誤った登記の出現を未然に防止するという登記原因証明情報を提供させる趣旨にはなんら支障ありません。したがって、当該通知書を提出した相続登記の申請は、却下できないのではないかと考えられる、との見解です。
相続放棄と利益相反行為
総説
未成年者が、相続の放棄をするにつき、その親権者が法定代理人として未成年者に代わって相続の放棄をすることは、利益相反行為になるでしょうか。
先例は、利益相反行為にならないとしていますが、その先例発出後になされた最高裁の判決では、相続の放棄が、利益相反行為になる場合があるとしています。
先例の紹介
先例は、①相続人が、未成年者AおよびBである場合に、親権を行う母(母はすでに相続放棄をしている)が、Aについての相続放棄の申述をするには、民法826条2項による特別代理人の選任を要しないが、特別代理人を選任して放棄した場合の登記の申請は、受理して差し支えないとしています。
その後において、②親権者およびその親権に服する未成年者の両名が共同相続人であって、未成年者の相続分を放棄する場合は、特別代理人の選任を要しないとして、①と同じ立場をとっています。
判例の紹介
前記の先例発出後において最高裁判所は、相続の放棄は、相手方のない単独行為であって利益相反行為に該当せず、特別代理人の選任を要しないとした過去の判例を変更して、相続の放棄が利益相反行為になる場合があるとする判決をしました。この判例は、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄に関する事案ですが、このことは未成年者とその親権者との利益相反行為について同じことが言えます。
この判例の要旨は、次のようなものです。
- 共同相続人の一部が相続の放棄をすると、その相続に関しては、その者ははじめから相続人にならなかったものとみなされます。その結果として、相続分の増加する相続人が生ずることになるのであって、相続の放棄をする者と、これによって相続分が増加する者とは、利益が相反する関係にあります。
- 共同相続人ひとりが、他の共同相続人の全部または一部のものを後見している場合において、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、必ずしも常に利益相反行為にあたるとは言えません。後見人が、自らの相続放棄をした後に、被後見人全員を代理して、その相続の放棄をしたときはもとより、後見人自らの相続の放棄と被後見人全員を代理してするその相続の放棄が同時にされたと認められたときもまた、後見人と被後見人の間においても、被後見人相互間においても、利益相反行為になるとは言えません。