わかる相続/法定単純承認
「春日部・越谷相続おまかせ相談室」による、相続・遺言・相続放棄の法文を解説しております。難しい言葉を使わず、どなたでもわかりやすいように解説しておりますので、ぜひご覧ください。
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単純承認とは、「無限に被相続人の権利義務を承継する」ことを内容とする相続人の意思表示をいいます。
単純承認をした場合には、たとえば、被相続人の債務が1000万円あった場合において、被相続人の積極財産(プラスの財産)が600万円であるときは、被相続人の積極財産で弁済できない400万円については、相続人が、相続人の自分の財産(相続が開始する前から、相続人が保有していた自分の財産)から弁済しなければなりません。なお、積極財産とは、預金・債権・固定資産など、金銭価値のある財産の総体をいいます。これに対して、財産の内の負の部分である債務のことを消極財産といいます。つまりマイナスの財産です。
なお、実際上、相続人が相続の単純承認をしたという意思を、対外的に示すことはほんとどないと思われます。しかし、相続人が、次の①〜③の事項の一つに該当したときは、単純承認をする意思がなくても、民法の規定によって、単純承認をしたものとみなされます。これを法定単純承認といいます。
法定単純承認に該当する事由は、次の通りです。
- ① 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき。ただし、保存行為および民法第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは除かれます。
- ② 相続人が民放第915条第一項の期間内(熟慮期間内)に、限定承認または相続の放棄をしなかったとき。
- ③ 相続人が限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費しまたは悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって、相続人となった他の者が、相続の承認をした後は単純承認したものとみなされません。
相続人が、相続財産の全部または一部を処分したときは、原則として、単純承認をしたものとみなされますが、この相続財産の「処分」とは、次のことです。すなわち、相続財産の売却・贈与などの法律行為を含みますが、事実行為も含むと解釈するのが通説的な考えです。したがって、相続財産である家屋の取り壊し、山林の伐採などの事実行為も処分行為にあたります。しかし、被相続人の死亡後にされた相続人による相続財産(道具類)の無償貸与行為は、処分行為にあたりません。また、いわゆる形見分けの品、たとえば、被相続人愛用の万年筆、衣類などの分配は、相続財産の「処分」に該当しませんが、高価なダイヤの指輪や高価な骨董品などは、形見分けという名目であっても「処分」に該当します。被相続人の葬式費用を相続財産から支払った場合に、当然営まれるべき程度の費用であれば、「処分」に該当しません。なお、この場合の「処分」は、相続の限定承認または放棄をする前になされた処分をいいます。
相続人が、相続財産の全部または一部を処分したことが単純承認したものとみなされる主たる理由を、判例は、次のように示しています。すなわち、「本来、かかる行為は相続人が単純承認をしない限り、してはならないところであるから、これにより黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず、第三者から見ても単純承認があったと信ずるのが当然と認められることにある」としています。
なお、相続人が相続財産を処分したとしても、いまだ相続開始の事実を知らなかったときは、相続人に単純承認の意思があったものと認めることはできません。そのため、民法第921条の規定による単純承認を犠牲することは許されません。判例も、単純承認の犠牲が適用されるためには、「相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、または、少なくとも相続人が、被相続人の死亡した事実を確実に予想しながら、あえてその処分をしたことを要する」としています。
相続財産を保全する行為、すなわち、相続財産の現状を維持するために必要な行為や相続債権の時効中断の措置は、民放921条1号の処分に該当しません。また、相続不動産について、民法602条に定める期間を超えない賃貸をすることも処分に該当しません。