わかる相続/代償分割と強制執行
「春日部・越谷相続おまかせ相談室」による、相続・遺言・相続放棄の法文を解説しております。難しい言葉を使わず、どなたでもわかりやすいように解説しておりますので、ぜひご覧ください。
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事例をご紹介しましょう。審判により遺産を分割することになり、相続人Aが被相続人の不動産を取得し、Aは遺産取得の代償として、他の相続人Bに代償金を支払うことになりました。しかし、Aは、代償金の工面ができないのでA名義とする相続登記をしていません。この場合、Bは代償金をどのように回収するか問題になります。
代償分割を内容とする遺産分割についての審判が確定したのにもかかわらず、相続人Aが自己名義の相続登記を申請しない場合は、相続人Bは、自己の債権(代償金をAから受領する権利)を保全するために、代位によりA名義とする相続登記の申請をすることができます。債権者(相続人B)は、自己の債権を保全するため、債務者の一身に専属する権利を除き、債務者に属する権利を行使することができるのです。
この債権者代位による登記の申請が認められる要件は、次の2つです。
第一に、債務者が自ら登記申請を行わないことです。第二に、債権者に自己の特定債権を保全する必要性があることです。
この事例においては、審判の結果、遺産を取得しなかったBは、Aに対して代償金の支払いを受ける請求権を有しています。その請求権を実現するために、Aの固有財産またはAが相続により取得した財産に対して、強制執行をすることができます。
Bが、Aの取得した相続財産から代償金支払い請求権の実現をしようとするときは、Aが自ら相続による所有権移転登記をしなければ、Bは当該不動産についてAに代位して相続による所有権移転登記を申請することができます。Bは、本件の代位による相続登記後に、当該不動産に対して強制執行をすることができます。
代償分割を命ずる審判書正本の例は、次の通りです。
主文
被相続人の遺産を、次の通り分割する。
- 別紙遺産目録記載の土地は、相手方Aの取得とする
- 上記遺産取得の代償として、相手方Aは申立人Bに対し、金◯万円および本審判確定の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。
申請情報(代位による相続登記)は次の通りです。
登記申請書
登記の目的 所有権移転
原因 令和4年◯月◯日相続(注1)
相続人 (被相続人甲)
越谷市千間台西◯丁目◯番◯号(注2)
A
代位者 草加市◯丁目◯番◯号(注3)
B
代位原因 令和4年◯月◯日遺産分割にもとづく代償請求権の強制執行(注4)
添付書類 登記原因証明情報(審判書正本・確定証明書付き)(注5)
代位原因証書 (審判書正本・確定証明書付き)
住所証明書 代理権限証書
(以下、省略)
(注1)相続が開始した日です。
(注2)遺産分割により申請不動産の所有者となった者です。
(注3)不動産登記法59条7号は、権利に関する登記の登記事項として「民法第423条その他の法令の規定により他人に代わって登記を申請した者(以下「代位者」という)があるときは、当該代位者の氏名または名称および住所ならびに代位原因」を記載しています。
(注4)日付は、審判が確定した日です。遺産分割審判は、これを受ける者が告知を受け、即時抗告期間の経過により確定し効力を生じます。審判の確定年月日は「確定証明書」に記載されています。
(注5)添付書類 ①登記原因証明情報・・・審判書正本および審判の確定証明書を提供します。遺産分割調停の事案ですが、遺産分割調停にもとづく相続登記の申請情報には、戸籍謄本・抄本などの提供を要しないという先例があります。なお、登記研究誌は、訴訟において相続人全員が参加していることが明らかなときは、判決正本を相続を証する書面として差し支えなく、この場合には、その判決正本の写しを、当該登記の申請情報とあわせて提供すべきとしています。
②代位原因証書・・・①の審判書正本および審判の確定証明書が該当します。
③被代位者Aの住所証明書
④代理人によって申請をするときは、代理人の権限を証する情報